『孔叢子』嘉言第一002:陳惠公大城

原文

陳惠公大城,因起凌陽之臺,未終而坐法死者數十人。又執三監吏,將殺之。夫子適陳,聞之,見陳侯,與俱登臺而觀焉。夫子曰:「美哉斯臺!自古聖王之為城臺,未有不戮一人而能致功若此者也。」陳侯默而退,遽竊赦所執吏。既而見夫子,問曰:「昔周作靈臺,亦戮人乎?」答曰:「文王之興,附者六州。六州之眾、各以子道來,故區區之臺,未及期日而已成矣。何戮之有乎?夫以少少之眾,能立大大之功,唯君爾。」

書き下し

陳の惠公大いに城き、因りて凌陽之臺を起し、未だ終らずし而法にれて死す者數十人たり。又た三たりの監りの吏を執え、將に之を殺さんとす。夫子陳に適き、之を聞きて、陳侯に見え、與に俱に臺に登り而觀焉。夫子曰く、「美しき哉斯の臺や。古の聖王之城臺を為る自り、未だ一人も戮さ不し而能く功此の若きを致す者有らざる也」と。陳侯默り而退き、遽に竊に執うる所の吏を赦す。既にし而夫子に見え、問いて曰く、「昔周の靈臺を作るや、亦た人を戮せし乎」と。答えて曰く、「文王之興るや、附く者六州たり。六州之眾、各の子(の道)*を以て來たり、故に區區たる之臺、未だ期日に及ばずし而已に成り矣。何ぞ戮すことの之れ有らん乎。夫れ少少之眾を以て、能く大大之功を立つるは、唯だ君爾」と。

訳注

*傅本によると「道」は衍字という。

惠公:BC534-BC506

靈臺:周の文王が建てたと言われる物見台。『詩経』大雅に「靈臺」の歌がある。

經始靈臺、經之營之。
庶民攻之、不日成之。
經始勿亟、庶民子來。

現代語訳

陳の恵公が大規模な築城を始め、その一環として凌陽之台(太陽並みに高い台)を造営し、完工するまでに工事の不手際があったとして数十人が処刑された。また三人の監督官を逮捕し、死刑に処そうとしていた。

先生が陳に旅した頃、話を聞いて、陳国公と会見し、共に台に上って景色を見た。先生が言った。

「素晴らしいですなあ、この台は。いにしえの聖王が城や物見台を造るようになってから、未だかつて、一人も殺さずにこのような素晴らしい造営が出来た者はおりませぬ。」

陳国公は黙ってその場を去り、そのままこっそりと、捕らえていた監督官を釈放した。それを終えてから先生を引見し、訊ねた。

「昔、周の文王が霊台を築いたと言うが、そなたの話通りだと、あの聖王が人を殺したのか。」

孔子「文王が位に就くと、全国九州のうち六州が配下に入りました。六州の民は、文王の子になったつもりで、自発的にわらわらと集まってきました。だから霊台如き小さな台は、一と月もせずに出来てしまいました。人を殺す必要なんて無かったのです。そもそも少々の人の動員で、大々的な成果を上げるのが、君主の仕事というものです。」

解説・付記

陳とは、孔子が華南諸国放浪中、滞在した国の一つ。蔡とともに大国楚と呉の間にあり、陳は楚につき、蔡は呉についた。蔡はほとんど滅亡同然になった。
華南地図
地図出典:http://shibakyumei.web.fc2.com/

孔子は陳・蔡でも何やら政治工作をやったらしく、その反動で包囲され、一行揃って飢え死に寸前になったことが『史記』『論語』に見える。だが具体的に何をしたかは伝わっていない。後ろ暗い事をしたからには当然なのだが、それを知りたければ、『孔子家語』や『孔叢子』の中から、ホンモノらしき話を取りあげるしかない。

陳の恵公と言えば、『左伝』定公四年(BC506)の経に「春,王二月,癸巳,陳侯吳卒。…六月,葬陳惠公。」とあるのだが、同年孔子は46歳で、国際的有名人どころか、代官にすらなっていない中堅官僚である。放浪に出るまでにはまだ9年の歳月が要る。

『徒然草』に出てくる、小野道風が書いた『和漢朗詠集』のようなもので、儒者はウンチクは凄い場合が希にあるが論理的思考はまるでお粗末だから、気を付けないとだまされる。

「凌陽之臺」というバベルの塔を思わせる築造も、『孔叢子』以外には見られない。残念ながらこの話は、まるまるのでっち上げだろう。また『史記』に見られる、孔子が陳に飛んできた鳥に刺さっていた矢にウンチクを垂れた話は、『孔子家語』では恵公の話になっている。

そもそも陳国の由来が、聖王舜の末裔だという事になっているが、これは孔子より一世紀後の孟子によるでっち上げ。スポンサーである斉国王は、まだ斉国を乗っ取って日が浅く、そして陳の分家を名乗っていた。そのキズに塗るクスリとして、聖王の末裔だと孟子が申しました。

論語 孟子 孟子 お笑い芸人
当時流行りの墨家が最初の聖王にでっち上げた、禹より古い聖王だと。それまで中国人の脳みそに、舜など居やしなかったのだ。こういうデタラメを検証もせず、有り難そうに講釈する漢学教授の本は、真に受けると頭がおかしくなるから、さっさと売り飛ばした方がよろしい。

警告

漢文業界の者は嘘つき中国人そっくりで、微塵も信用ならぬ(→理由)ので、数言申し上ぐ。


出典明記の引用は自由だが(ネット上では可動リンク必須)、盗用・剽窃は居合を嗜む有段者の訳者が、櫓櫂の及ぶ限り追い詰める。言い訳無用。訳者が「やった」と思ったら、全国どこでも押し込む。頭にきたら海外にも出かけ、バッサリやってすぐ帰る。訳者は暇であるし、惜しむものを持っていないし、面倒が苦にならぬゆえ、こうして古典を研究している。

刀の手入れは毎日している。そして未だ人を斬ったことが無い。

盗作・剽窃の通報歓迎。下手人を成敗した後、薄謝進呈。他人にやらせた者も同罪、まずそ奴から追い回してぶっ○○る。覚悟致せ。

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